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ジュリア

Julia
ジャンル: ドラマ , 戦争
公開: 1978/06/17
製作国: アメリカ
配給: 20世紀フォックス

    ジュリア の映画レビュー (最新順)

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    • 5.0 ハラハラ クール

      ネタバレ   このレビューはネタバレを含みます。
      "アメリカ映画史に残る格調高い女性映画の秀作"

      アメリカ映画は長い間、男性を主人公とする男の世界を描いて来ましたが、1970年代後半以降、女性の生き方に対する見直し等の当時の社会の流れを反映し、女性の日常感覚や生活感をよりリアルに描いた「アニー・ホール」「愛と喝采の日々」「グッバイガール」等の女性映画が盛んに製作されるようになりました。

      映画「ジュリア」も1977年に製作された一連の女性映画の系列の1本で、
      この状況を象徴するかのように1977年度のアカデミー賞の作品賞候補は
      「ジュリア」「アニーホール」「愛と喝采の日々」「グッバイガール」「スター・ウォーズ」の5作品中、何と女性映画が4作品も占めていました。そして受賞したのはご承知のように「アニー・ホール」でした。

      「ジュリア」はオーストリアのウィーン生まれのユダヤ人で両親をナチスのホロコーストで失くしているフレッド・ジンネマン監督の作品で、彼の反ファシズムの姿勢は生涯一貫していて、「山河遥かなり」「日曜日には鼠を殺せ」そしてこの「ジュリア」を観ても、その強烈な姿勢は貫かれており、ファシズムに対する怒りの炎が燃え続けている事がわかります。

      原作は劇作家リリアン・ヘルマンの回想録「ペンティメント」中の一話からの映画化で脚色を「ペーパームーン」「普通の人々」の名脚本家のアルヴィン・サージェント、撮影監督を「冬のライオン」の名手ダクラス・スローカム、音楽を「わが命つきるとも」「ジャツカルの日」でも組んでいるジョルジュ・ドルリューという映画ファンにとってはワクワクするような凄いメンバーが参加しています。

      第50回アカデミー賞でヴァネッサ・レッドグレイヴが最優秀助演女優賞、ジェイソン・ロバーズが最優秀助演男優賞、アルヴィン・サージェントが最優秀脚色賞を受賞し、第35回ゴールデン・グローブ賞でジェーン・フォンダが最優秀主演女優賞、ヴァネッサ・レッドグレイヴが最優秀助演女優賞を受賞し、ニューヨーク映画批評家協会賞でマクシミリアン・シェルが最優秀助演男優賞を受賞しています。また同年の英国アカデミー賞で最優秀作品賞、ジェーン・フォンダが最優秀主演女優賞、アルヴィン・サージェントが最優秀脚本賞、ダグラス・スローカムが最優秀撮影賞を受賞しています。

      「ジュリア」はナチス台頭期に反ファシズム運動に命を賭けて闘ったジュリア(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)という女性との友情とハードボイルド作家ダシェール・ハメット(ジェーソン・ロバーズ)との愛情を通してリリアン・ヘルマンという一人の劇作家である女性の、人間としての精神形成の歴史を描いていきます。

      映画はすでに年老いてしまったリリアン・ヘルマン(ジェーン・フォンダ)が湖上に小舟を浮かべて、うずくまるようにした彼女の背中を見せて過去を回想するモノローグから静かに始まります。見事な映画のオープニング
      です。

      リリアンは1943年「マルタの鷹」等で有名なハードボイルド小説の始祖と呼ばれるダシェール・ハメットと一緒にロングアイランドの海辺の家で暮らしていましたが、リリアンは処女作の「子供たちの時間」の執筆が思うようにはかどらず、煙草を何本も立て続けに喫いながら、髪の毛をくしゃくしゃにかき乱して、かなり苛立ち、作品の生みの苦しみを味わっています。

      そんなリリアンを静かに優しく見守りながら、温かく深い愛情でリリアンを包み込み、しかも彼女の書く作品に対しては厳しい目を向け、愛人でもあると同時に後輩を育てようとする厳しい目をもつ作家としてのハメットの姿を通して、この二人の愛の在り様がフレッド・ジンネマン監督の優しく静かな中にも深みのある演出で我々観客の心の襞に染み込んで来ます。

      執筆活動に行き詰ったリリアンはハメットの勧めにより単身パリへ行く事になりますが、この間にリリアンの少女時代のジュリアと過ごした日々の回想が描かれていきます。この少女時代のジュリアを演じたリサ・ペリカンの聡明で凛々しく、清清しい存在感には目を見張るものがあります。

      成人したジュリアはウィーンで反ナチスの地下運動に参加し、その活動の中で重傷を負い、知らせを聞いてウィーンへ行ったリリアンは病室のベッドに横たわり、口もきけない状態のジュリアに再会しますが、その翌日、ジュリアはリリアンの知らない間に病院から姿を消し、消息を絶ってしまいます。

      その後、リリアンは失意のままアメリカへ帰り、処女作を完成させ、これが絶賛を浴び、一躍有名人になっていきます。そしてリリアンはモスクワ演劇祭に招かれた途中にパリに立ち寄りますが、朝方に帰ったホテルのロビーにジュリアからの伝言を携えたひとりの男が待っていました。
      反ヒットラーの運動で投獄されている同志を助けるために、賄賂として使用する5万ドルをベルリン経由でジュリアのもとへ運んで欲しいという危険な依頼でした。さすがにリリアンも作家として輝かしい未来が開けて来たところなので迷い逡巡します。しかしジュリアに逢いたいという強い思いがリリアンをベルリン行きの列車に乗せ、やがて彼女は列車の中で姿の見えない追っ手からの恐怖を味わう事になり、ヒッチコックタッチのサスペンスのような展開になりますが、ヒッチコックが描くエンターテイメントとしての恐怖ではなく、何かもっと深く厳しい恐怖を味わう事でリリアンの心の中にある変化が起こります。

      この変化は恐怖の中で"姿の見えない心理的な強迫観念を押し付けてくるナチズムへの激しい怒り"であり、これが後に彼女が執筆する「ラインの監視」に反映され、1950年代にアメリカで吹き荒れた"赤狩り(マッカーシズム)の嵐"に対して果敢に闘う姿勢へと引き継がれていく事になります。

      ベルリンに到着したリリアンが久し振りに再会したジュリアは抵抗運動の中で片足を失い、義足を付け、松葉杖の痛々しい姿でした。この二人の恐怖に絶えず襲われそうになりながらの再会の短いシーンのピリピリとした緊張感が圧倒的な迫力で心の奥底に迫って来ます。フレッド・ジンネマン監督が超一流の演出家であると言われる所以がまさに実感出来ます。

      リリアンは結局5万ドルを引き渡す事に成功し、ジュリアが生んだ赤ちゃんを引き取って育てる事を約束しますが、その後、ジュリアはナチスの手によって虐殺され、ジュリアの赤ちゃんも遂に見つかりませんでした。

      失意のままアメリカへ帰ったリリアンは、深い悲しみをファシズム等の不条理ともいえる権力への怒りと憎しみに変え、その後の新しい戯曲を執筆していく原動力に昇華していきます。

      映画のラスト、湖上に小舟を浮かべて釣り糸を垂れるリリアンのシルエット。そこにリリアンの声が流れてきて余韻のある見事なラストシーンで映画は幕を閉じます。

      この「ジュリア」という映画は反ファシズムを生涯貫いたフレッド・ジンネマンという監督とヴェトナム反戦運動の活動家のジェーン・フォンダという女優、パレスチナ解放運動の反体制活動家のヴァネッサ・レッドグレイヴという女優の歴史の必然性によって実現した奇跡のコラボによるもので、あらためて"時代や社会と向き合う事で時代の合わせ鏡となる映画"というものの素晴らしさを感じられた、後世に残り得る優れた名画だと思います。
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      2016/01/16 by dreamer

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