こんにちはゲストさん(ログインはこちら) | 映画ログ - 映画ファンが集まる映画レビューサイト →会員登録(無料)

影の車

監督: 野村芳太郎
キャスト: 加藤剛 , 岩下志麻 , 小川真由美 , 滝田裕介 , 岩崎加根子

    影の車 の映画レビュー (最新順)

    最新のレビュー順 | 人気のレビュー順 すべての映画レビューとコメントを開く
    全1件
    • 5.0 切ない ハラハラ クール

      ネタバレ   このレビューはネタバレを含みます。
      松本清張の小説は、映像の作り手たちを刺激し、触発するようで、今まで数多くの映画化、TVドラマ化されてきたし、松本清張自らが「霧プロ」を立ち上げて、映像化の旗振りをしたこともありましたね。

      それらの映画化作品を振り返ると、例えば、清張映画の最高傑作とも言える「砂の器」をはじめ、「眼の壁」「球形の荒野」「わるいやつら」のように、様々な人間たちが入り乱れたり、背景が過度に錯綜したり、汚職や陰謀などのやや現実離れした話になったりすると、小説のように文章で読むぶんには耐えられますが、映像化した場合には無理が生じるという気がします。

      逆に、「張込み」「黒い画集」「霧の旗」「内海の輪」「鬼畜」「疑惑」「天城越え」のように、人物は少人数の市井の人間に限られ、リアルな日常生活の中で欲望や怨恨がドラマを動かすタイプの小説の方が、秀作を生んで来たのではないかと思う。

      そして、1970年に野村芳太郎の監督、川又昂の撮影、芥川也寸志の音楽という清張映画常連のベテランたちが結集して作ったのが、「影の車」なんですね。

      この映画の冒頭、サラリーマンたちがそわそわと退勤し、新興住宅地を走るバスで家路を急ぐシークエンスだけで、映画は「昭和45年」のムードを見事に描き出す。

      昭和45年は、大阪万博の年であり、戦後の高度経済成長の急成長期を必死に、そして虚心に駆け上がってきた人々が、つつましくも衣食満ち足りて郊外に新しい家を構え、精神的な踊り場に差し掛かったような頃だったと言えるのかもしれません。

      そして、そんな大多数の普通の市民のひとりであったはずの、旅行案内所でこつこつと真面目に働く浜島(加藤剛)が、偶然、再会した幼馴染みの泰子(岩下志麻)とほんの出来心で関係を結んでしまうところから、浜島の日常にひびが入っていく。

      松本清張の小説にしばしば登場する、小心なくせに利己的で女や賭博に溺れてしまう小市民の男を、加藤剛が絶妙に演じて、実に見事だ。

      加藤剛は、和製ロバート・レッドフォードとも言えるほどの端正な容貌から、「砂の器」の劇画チックで悲劇的な二枚目やTV時代劇の「大岡越前」のような生硬なヒーローといった役柄を配されることが多いが、実はこういう精神的な脆弱さが表に出たような小物の悪人といった役柄が、凄く似合ったりするんですね。

      恐らく、加藤剛本人も、いつにない役柄を面白がって熱演したのだと思うが、「影の車」の勤続12年の係長役は「砂の器」の天才作曲家よりも、遥かに加藤剛の「潜在能力」を引き出していると思いますね。

      単調な会社勤めや社交好きのかまびすしい妻・啓子(小川真由美)との毎日にも、ややうんざり気味の浜島は、夫と死別して6歳の男の子・健一を抱えながら、女の色香を持て余している泰子に、ずるずるとのめり込んでいく。

      この真面目に、遊ぶこともせずにやってきた無趣味な男が、色欲にのめり込んで破目をはずしたらどうなるか-------。
      その歯止めの効かない危うさを、加藤剛は繊細で、抑制の効いた演技で表現して実に見事だが、一方の岩下志麻の全身から漂う妖艶さも、実に素晴らしい。

      この二人が子供もそっちのけになっていく薄情さも、それを埋め合わせようと、とってつけたようなサービスをする姑息さも、野村芳太郎監督は、きめ細かく描いており、健一が殺意を帯びる前提が伏線として、周到に築かれるんですね。

      そして、健一が浜島に仕掛ける毒饅頭やガス漏れといった、ちょっとした子供の殺意が、ちょっとしたことだけにリアリティを帯び、それが自らのトラウマと符号した浜島は、ノイローゼ気味に健一を恐怖するのだが、ここでの浜島の幼児期の回想=「潜在光景」の描写は、実験的でありつつ、物語の求めるイメージと見事に合致していると思う。

      撮影の川又昂は、カラーのマスターポジとモノクロのネガをずらして重ねるという着想にて、まさに虚実の皮膜を映像として具現化してみせていると思いますね。

      この映像効果によって、幼い浜島が健一とまるで同じ理由で伯父を断崖から落として絶命させた記憶が、まがまがしさと美しさのないまぜになったイメージで、鮮烈に描かれてこの映画のピークをなしていると思う。

      そして、この映像に加えて、芥川也寸志のフランシス・レイ風のメランコリーを志向したようなメロディが全篇にさざめき、これも観終えた後、いつまでも耳の奥に残って離れません。

      こうしたスタッフとキャスト、それぞれの意欲的な試みを、例によって鷹揚に、寛大にまとめあげた野村芳太郎監督の演出も、実に良かったと思いますね。
      >> 続きを読む

      2018/07/11 by dreamer

      「影の車 」のレビュー

    このアイテムを最近、ラックに追加した会員

    影の車

    影の車 - 野村芳太郎 | 映画ログ
    ASINコード:B0144VR2HO
    JANコード:4988105946248

    会員登録(無料)

    今月のおすすめ映画
    読書ログはこちら
    映画ログさんのラック

    レビューのある映画

    最近チェックした映画